英語の語彙は他の文明言語の2倍以上はあると言われている。そして、英語学習者は「単語ってどうすれば覚えられるんですか?」と皆悩みを抱えている。
学習初期の段階では多くの人は英検準1級、英検1級と勉強することで語彙力増強を目指す。ところが、英単語の一番の難所は、基本語が持つ多様な意味を覚えていくところにある。
今回は寺澤氏の「英単語の世界」を参照しながら基本語が持つ様々な側面についてみていきたい。単語の歴史を知ると記憶の手助けになるのだ。
まず、fastから見ていこう。
fastというと「速い」で覚えてしまうものだが、
・fasten your seatbelt シートベルトを締めてください
・fasting 断食
・breakfast 朝食
・run fast 速く走る
・He is fast asleep. 彼はぐっすり眠っている。
これらは同じ語義から生まれている。
fastは「しっかりと固定する」というのが本来の意味である。
すると、
しっかり固定するから、「シートベルトをしっかり締める」、fastingは日々のルーチーンで固定されていること、つまり夜の12時から朝の7時までは眠っていて食事をとらないので断食の意味になる。それを打破することbreakfastなので「朝食」の意味になる。「しっかり固定されている」からこそ、スピードも固定されていて「速度が落ちない」から「速い」の意味になり、そして「しっかり固定された状態」で寝ているので「ぐっすり」寝ていることになる。
本書で取り上げられていないが、goodも同じようにして覚えられる。
goodは本来「良い」の意味だが、
My passport is good for 10 years.
He is as good as dead.
He is good for nothing.
He is good at mathematics.
これらはgoodが「~を満たす」の意味からきている。
「パスポートが10年間基準を満たす」と「有効だ」になり、「彼は死んでいるの基準を満たす」となると、「彼は死んでるも同然だ」になり、nothing(何もない)の基準を満たしていると、「ろくでなし」の意味になり、「数学の基準を満たしている」と「数学が得意だ」になる。
他には、単語を本来の意味で使わずに「控えめな言い方」にする側面が紹介されている。
たとえば、「つまらないものですが」とか「ちょっとした贈り物ですが」は「高価なもの」であっても、
This is my little gift to you.という。
I met quite a few people.も本来は「少し」の意味であったが、「たくさんの」を表すようになった。
アメリカのイラク戦争のときに一般市民に誤爆してしまったときは、
collateral damage 「付随被害」と表すが、「誤爆による市民の犠牲」が本当の意味である。
そして、お手洗いというbathroom, restroomも「浴室」「休憩室」が本来の意味であったが、そこから「トイレ」を意味するようになった。
どうやら言葉は控えめにいうことで、本当のことを伝えようとするところがあるらしい。
ほかにも音が似ていることから、「息」を表すbreathと祝福を与えるのblessを混同して、くしゃみをした人に対して、God bless you.ならぬBless you!と言うようになった歴史など、単語の様々な面白エピソードが取り上げられている。
単語の歴史を知ると、基本語の使い方にも幅が出てくるはずである。