スポーツも音楽も絵画も語学学習も、何事も「型」が大事です。
守破離という言葉があるように、人はまず型を学んでしっかりと守り、そして慣れてきたら型を破り、最後に型から離れて独自のものを作りだすようになっていきます。
ネットでは受験生が合格という事実をもとに自分がとった勉強法が唯一の正解であるかのように紹介することがありますが、たまに間違っているものもあります。
病気になったら知り合いに相談するよりも、まずは医者に相談する方がいいように、勉強法も受験英語に精通した達人の言葉に耳を傾ける方が正しいといえます。以下に紹介していきましょう。
英作文の守破離とは、ずばり短文を覚えることです。
今回は短文暗記について、生きた英語について、誤った勉強の傷あと、という三つを紹介したいと思います。
まずは「短文」(700選)を覚えることの重要性から見ていきましょう。
(ちなみに「700選」とは駿台から出ている「基本英文700選」のことで、昔はこの本の英文を覚えることが多かった)
【引用開始】
生徒「700選を全部覚えた人はひとりもいないと聞きました」
伊藤師「大学入試の当日には全部覚えていた人を僕は大勢知っているよ。それに700選を最後までやらなければ力がつかないというものでもない。
途中で投げた人はその悔しさが先に立つのは分かるけれど、覚えれば覚えただけのことは必ずある。
たとえ忘れても、覚えるという操作を通じていったん意識の底に沈めたものが、無意識の世界からも完全に消滅することなど決してない。
自分では忘れてしまったと思っているものの積み重ねが、英語に対する君たちの姿勢を作るのさ。英文に対する解釈の可能性はコンピュータは機械的にひとつひとつ検討してゆかねばならないが、人間がそうしなくて済んでいるのは、頭の中にすでに英語がインプットされているからだって。
700選を覚えることからは、何百ページの英文を読むことに匹敵する効果が上がることも忘れないでもらいたいね。ひとつひとつの英文は忘れてもいいから」
【引用終了】
次にネットでよく見る、「ネイティブはこのように言う」、「日本人が書いた英文は古臭い、変だ」という意見に対して、「生きた英語」「死んだ英語」で伊藤和夫先生は次のように述べる。
【引用開始】
生徒「学校の先生の答を外人に見せると、これはおかしいとか、こんな言い方は今はしないとか言って直されることがあるんです。あと英語が使われる場所の問題もあるんじゃないでしょうか。イギリス英語とアメリカ英語は違うわけですから」
伊藤師「もっと細かくいえば、日本列島の内部でも、所によって微妙な差があるように、イギリスやアメリカの内部にだって地域差がある。
生きた英語であればあるほど、時間や地域に縛られる。ということはまた、その英語が死ぬまでの時間も短いわけだ。日本で英語を勉強する限界はそこにある。
だいたい、我々が勉強にあたって頼りにする辞書だって、制作に着手してから完成までに10年かかるのは珍しい話じゃない。とすれば、この10年の新語、新用法は辞書に出ていないことが多いわけだ。辞書に出ていないということは、大部分の受験生には知るための手段がないということだ。
知るための手段がないものを受験生が知らないからといって、試験で点を引くのはおかしい。そういう意味で、我々の英語は死んだ英語、最大公約数の英語にならざるを得ない以上、英作文の答は、古くてもいい、ぎこちなくてもいい、英米人が読んでわかり、日本文の意味の主要部分が相手に伝わりさえすればよいというのが僕の考えだ。
学校で習う英語は死んだ英語でも、基礎がしっかりしていれば、それをその場その場で相手に合わせて「生かす」ことは、そんなに難しいことではないはずだからね」
【引用終了】
確かにtakeaway(重要な点)などは辞書では出てこないが(最近のリーダーズ英和中辞典ではあった気がする)、英字新聞や海外のニュース番組ではよく使われている。
最後に「要領のよさ・悪さ、誤った勉強の傷あと」という箇所から短文を覚えることの大切さをいまいちど紹介してみたい。
【引用開始】
伊藤師「英作文は自分で文章を作るんじゃない、英語の考え方、英語を母国語として使う人の発想を模倣するんだけど、要領のよい人はまず正しい英文だけに接することで、頭の中に正しい英語ができあがる。
ところが、要領の悪い学生は、必要な英語を頭の中に入れないままで、苦労して英語でないものを「作る」んだ。
正しい英語の考え方は、正しい英文に接することによってできあがるんだけど、努力して英語でない文章を作った場合には、その結果できた「非英語」が本人の意志とは無関係に頭に刻みつけられることになる。しかも、努力が大きければ大きいほど、その傷あとはかえって深く、10ページや20ページの正しい英文に接してももう消えないんだ。
学習法の誤りのために、本来正しい英語が刻まれているべき頭脳のスペースが傷跡だけで充たされ、回復不能ではないかと思うほど痛めつけられているのを見ると心が暗くなる。
基本的な英文の暗記を欠かさないこと、復文練習から翻訳練習への順序を守り、翻訳練習のときには、問題の日本語をできるだけ自分の日本語に引き付けて、自分にいえることだけを正しく言うことを心掛け、誤りをおかすのを最小限にとどめること、この2つを英作文の勉強をするときには必ず守ってもらいたい」
【引用終了】
英語でないものを苦労して「作り出す」ことで、脳に間違った英語が刻み込まれると、修復が難しくなっていきます。ちょうどテニスや卓球で我流で変な素振りをして変な癖がつくと、後からそれを修正するのが難しくなるのに似ています。
ネイティブはこういう!というトレンド本を追いかけるよりは、正しい英語に触れて、古かろうがぎこちなかろうが、正しい英語を頭の中に入れるのが何よりも大切です。